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山口家庭裁判所 昭和48年(少ハ)2号 決定 1973年5月11日

少年 S・E子(昭二八・一二・一八生)

主文

一  少年を昭和四九年五月一〇日まで中等少年院に戻して収容する。

二  窃盗、詐欺保護事件について少年を保護処分に付さない。

理由

(事実)

少年の陳述ならびに本件関係記録によれば次の事実が認められる。すなわち少年は

1  昭和四五年九月二八日、山口家庭裁判所において、窃盗、私文書偽造、同行使、詐欺の行為により、中等少年院送致の決定をうけ、貴船原小女苑に収容され昭和四七年六月二二日、同少年院を仮退院して指定帰住地の山口県徳山市○○×○下○夫方伯母○ツ○の許に帰住し、翌二三日山口保護観察所に出頭して同観察所の保護観察下に入つたが、昭和四七年八月一九日広島市○○町所在喫茶店「○○」に住込就職したため、昭和四七年九月七日山口保護観察所から事件移送され、以来広島保護観察所において保護観察中のものである。

2  仮退院に際し、同委員会から法定遵守事項のほか別紙(一)記載のとおりの特別遵守事項が定められ、その遵守を誓約したものである。

3  昭和四七年六月二四日伯母の許を無断家出して、徳山市内のスタンドバー「○○○」に住込就職したが、その事情を担当保護司に連絡せず、同年八月八日ごろ徳山市内のスタンドバー「○」において経営者に対し就職、返済の意思がないのに同店に就職する旨申し向けその旨同人を誤信させその場で前借金名下に現金二万円を騙取し、右金員をもつて同日ごろ家出し、貴船原少女苑の○○教官を訪ね、広島市内での就職斡旋の依頼をしたが同教官から右金員を返済するため徳山市へ帰るように論されたにもかかわらず、同年八月九日広島駅で出合つた知人○田○二、○山○子の両名と大阪方面に遊びに行くこととし、その際同人らと共謀のうえ別紙(二)記載のとおりの窃盗、詐欺事件を敢行したほか、福山市内で駐車中の自動車内からサングラス一個を盗み、同年八月一〇日岡山県西大寺警察署に逮捕されたものである。

4  昭和四七年八月一九日ごろから前記喫茶店「○○」にウエイトレスとして住込就職し、保護司○山○雄の保護観察を受けることとなつたが、同保護司に生活状況を報告せず、その助言指導を受けないで、同年九月二〇日ごろ広島市内のクラブ「○○○○」にホステスとして無断転職、転居し、同年一二月二日ごろ広島県佐伯郡○○町のバー「○」にホステスとして無断転職、転居し、同月二二日ごろ同店を退職した。

5  前記クラブ「○○○○」に勤務したころから、貴船原小女苑在院中に知り合つた非行前歴を有し覚せい剤常用者である○村○や○やその情夫で暴力団員と目される○宮○(覚せい剤取締法違反容疑で昭和四八年四月二三日広島西警察署に逮捕)と相当親密な交際を続け、その間○村○や○や○宮○にすすめられるまま五回位覚せい剤を注射し、昭和四七年一一月ごろから勤務先のマネージャー○尾○と不純異性交遊を続け(昭和四八年一月二一日妊娠中絶手術を受ける)、前記バー「○」を退職した後は○村○や○に追従し、かつて同女と情交関係のあつた岡山県倉敷市内の暴力団員と目される男の許に約一週間滞在し、その間同人にすすめられるまま右口唇下にホクロ様の刺青を入れた。

六 昭和四八年四月初めころ、貴船原少女苑在院中の知り合いで仮退院中の覚せい剤常用者○佐○子と交遊し、同年四月一五日ごろから四月二〇日までの間行動を共にし、連日生理痛と称して鎮痛剤「オプタリドン」を定量以上に服用し、その薬理作用により朦朧となつた状態で広島市内を徘徊し、同市内のホテルや旅館を転々とし、その間前記クラブ「○○○○」から前借金名下に現金六万円を借り受け、そのうちの四万円をもつて覚せい剤を購入し、○佐○子と二人で四、五回注射したものである。

(処遇の理由)

以上の諸事情に少年調査記録上の問題点を総合して考慮すると、本件少年に対しては在宅保護によつて改善・更正を図ることは到底期待しえず、ことに最近に至つて少年が覚せい剤常用者との交遊を深めかつ少年自身も覚せい剤を嗜好し始めており、覚せい剤購入の資金調達の為に手段を選ばない傾向が瞥見されることは看過できない。従つてこの際少年を中等少年院に戻して収容し、覚せい剤常用者ならびに暴力団関係者らとの交遊関係を断ち切るとともに厳格な矯正教育を施し、少年に対し規律ある生活態度を躾け、社会適応性を涵養することが必要である。

してみれば、少年に対する中国更正保護委員会の本件申請は相当であるが、その収容期間については、少年も深く反省悔悟していることに鑑み、当裁判所は少年の改善更正の為には一年で足るものと認める。よつて犯罪者予防更生法第四三条第一項、少年審判規則第三七条第一項第五五条少年法第二四条第一項第三号により主文第一項のとおり決定する。

なお、本件保護事件は戻し収容申請事件と併合審理し、すでにその理由ともなつているものであるからもはや保護処分の必要性は認められないので主文第二項のとおり決定する。

(裁判官 渡辺雅文)

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